小笠原ツアー:3日目、千尋岩トレッキング
ツアー3日目は、小笠原・父島南端の断崖絶壁、千尋岩の絶景を訪ねるトレッキングです。千尋岩250mの断崖は、海側から見ると赤い岩肌がハート形に見えるため、別名ハートロックと呼ばれるようになっています。
余談ながら、翌日お世話になった南島行きチャータ船の船長さんの話では、昔、子供の頃は、断崖の岩肌は黒かったのに、野生化して増えたノヤギ(ここでも問題になっていました)が、地表の植物を食い荒らした結果地肌がむき出しになり、その赤い土が流れ落ちるようになって断崖の岩肌を赤く染めている、ということでした。(→ツアー4日目、南島の項にハートロック写真掲載)
小笠原は亜熱帯域ですが、年間雨量(1,280mm)はそれほど多くはなく、やや乾燥気候です。森林は湿性高木林と乾性低木林に大別され、湿性高木林は人が定住するようになってから開拓が進み、本来の高木林はほとんど見られなくなったそうですが、人手のあまり入らなかった乾性低木林には固有種も多く残り、亜熱帯の特異な林相が見られるということです。
また同時に多くの固有種をかかえたユニークな植物相がありますが、近年は帰化した植物種の定着、分布域拡大などの影響で、本来の自然生態系が乱されることになり、現在その対策が進められています。
トレッキング:
今回訪ねる千尋岩コースも森林生態系保護地域に指定されていて、入林許可を受けた専門ガイドの同行が必要です。
今はところどころ踏み跡もおぼつかなくなり、ゴムの木の大木やガジュマルの大木林が茂るジャングルと化した区間もあるトレッキングコースは、GPSを携帯した専門ガイドの案内がなければ安心して歩くことはできないでしょう。
かつての軍用道路の跡をたどるコースのあちらこちらには、埋没しかかった旧日本軍の軍用車残骸や軍事施設の跡がみられました。
行程の標高差は300m、歩行距離は約5km、実歩行時間は4時間くらいでしょうか。コースを熟知した健脚者なら片道90分程度ということでしたが、それはともかく、豊かな自然、一方でその乱れ、また旧本軍の旧弊を感じながらも、千尋岩のすばらしい自然を満喫できて、滞在時間6時間の充実したトレッキングでした。
アプローチ
①南袋沢の駐車場から舗装道路の橋を渡ると森林生態系保護地域の入り口です。ここで”全手動”で入域の申告を済ませます。(余計なことですが、帰りに確認した結果、この日は我々以外には誰もどこへも行かれなかったようでした)。
②沢沿いのルートを歩き始めてすぐ、バナナやオガサワラビロウ、タコノキなどの樹木が見えました。(小さくて見にくい写真ですがクリックで拡大表示になります)
③ルート脇のシダの群落に埋もれた軍用車の残骸がありました。
④ノヤギ:
持ち込まれた年代は正確にはわからないそうですが、食糧として持ち込まれ野生化したノヤギは山間地の至るところでその姿を見ることができました。コース沿いの沢を隔てた対岸の枕状溶岩壁に数頭の群れがいました。なかなか立派な体格です。
在来植生をエサとして増えたことで固有植物相が大きく変化し、生態系全体が影響を受けているそうで、駆除などの対策が一部で行われているということです。
コースはやがてガジュマル、インドゴムその他が生い茂る森の中へ。
①グリーンアノール:
黄緑色の見た目にはきれいなトカゲですが、米軍統治時代の1960年代にグアム経由で父島に持ち込まれ、今は父島・母島ではどこでも普通に見られる外来種です。
小笠原固有のチョウやトンボなどを絶滅に追いやった最大の容疑者として捕獲・駆除もすすめられています。ゴキブリやネズミ取りと同じように粘着シートのトラップが仕掛けられているところを市街地の近くでも目撃しました。
アマガエル同様、居場所で体色が変わる保護色のため、慣れないと発見が難しかったものです。茶色の木肌の幹にいた茶色の個体は、ガイドさんから、ホラ、あそこにいるでしょう、と何度か指さされて、やっと写真に撮れましたが・・・。
②グリーンペペ:
沢底に落ちていたタケに生えているのをガイドさんが見つけて教えていただきました。手で覆って見たくらいでは光りません。でも日中その姿をはっきり見られてよかったです。
③マルハチ(固有種):
木性のシダです。見上げると葉が2~3mにもなる大きな葉柄が和傘の骨のように広がっています。写真では分かりませんが、幹には葉柄の落ちた跡、葉痕、維管束根が「○の中に八の字」になっているので、マルハチ。わかりやすいです。(→また別に写真を掲載したいと思います)
④オガサワラビロウ(固有種):
前の木が邪魔でいい写真が撮れませんでしたが、画面奥のシュロのような大木です。葉は山の中で突然の雨に降られた時に、傘の変わりになる(といっても破れ傘でしょうが)ほど大きくなります。
樹林帯を抜けてハイライト千尋岩へ。
①レーダー庫跡:
標高298mの衝立山の近くに旧日本軍のレーダー庫跡が樹林の中に取り残されていました。当時は開けた場所だったのでしょう。
②ここから少し行くとやがてやや崖っぽい細 いルートになり、両側に生えた木の幹や根っこに掴まりながら少し下ります。
下りの途中、樹林の切れ目からめざす千尋岩、その先の南島が遠望できます。ここまで来るともう一息で到着です。
③赤茶けた地肌の広がる千尋岩頂上(海から約250m)の西側にやや高い(270m)岩場があり、よく見るとそこにもノヤギの姿がありました。
④浸食が進む千尋岩頂上台地です。少し雲行きが怪しくなってきましたが、ここでお昼を食べ、雄大な展望を満喫しました。
帰路。
往路のレーダー庫跡から少し先に分岐があり、復路はそこから別の廻り道を通り、戦跡やガジュマル大木林など観察しながら樹林帯を抜けきった沢のあたりで往路に合流します。
①アカバナルリハコベ:
お弁当を食べようと腰を下ろした千尋岩台地のわずかな草地には、よく見るとノヤギの糞がいっぱいありました。
その傍らに、草丈約5cmで、5mmほどの小さな赤い花をつけた植物が”食べ残されて”いて、この厳しい環境によくぞ生き残っているなと、知らないうちはその”可憐さ”に感動したのですが、後で調べてみると、なんと何処にでもはびこる頑丈な、外来種雑草のアカバナルリハコベとしりました。
安易に感動してはいけませんね。
②樹間に埋もれコケに覆われる軍用車残骸。このまま風化し、いずれは消えていくのでしょうか。
③タコヅル(絞め殺しの木)が絡みつく独特の樹林景観です。森の随所で見られました。
④少し広場になった空間を取り巻くガジュマルの大木樹林。驚くばかりです。
大半のガジュマルは戦後防風林として植えられたものが繁茂したという事でしたが・・・。
樹林帯を抜け、往路と同じ帰路の沢筋で目についた花の写真です。
①ホナガソウ:
既に掲載しましたが、”外来御三家”として、必ずしも歓迎されてはいない様子の雑草です。
南アメリカ原産の帰化植物で戦前に持ち込まれた常緑の多年草。父島の道端では何処にでも見られ、しかも年中花をつけているそうです。
花は通常、穂の一部だけについて順次花の位置が上方に移っていくというもので、たしかに数輪しか咲いていないものが多かったのですが、たまたま小休止した明るい草地に大群落があり、そこにたくさんの花がついた個体がありましたので、思わず写真に。
まあ、きれいですね。茎部は一部木質化して小低木に見える群落もありました。
②ヤロード:
固有種。直径7mmほどの白い星形の花をつけていましたが、まだ蕾のものが多かったようです。
③ムニンヒメツバキ:
固有種。小笠原の花に定められています。島内に広く分布していて、樹は高木になり、樹皮が縦横に裂けるのでわかりやすいそうです。
初夏の頃からお茶の花に似た白い花をたくさんつけるということで、大木は存在感があり、とても目立ちました。
④:テリハハマボウ:
固有種。ハイビスカスの仲間です。山地形の植物で生育環境が幅広く、高木から小低木まで見られ、葉はつるつるしていてハート形。
花は一日花で、島ではイチビと呼ばれるそうです。
よく似た花が海岸付近で見かけられます。同じものかと思いましたがそうではなく、後でそちらは広域分布種のオオハマボウと知りました。
午後少し心配のあった天気の崩れもあまりなくて、充実したトレッキングの一日でした。
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