一度は行ってみたいと思っていた釧路湿原です。
映像などでは雪景色に丹頂鶴の姿がまずイメージされますが、特別にこだわりもなく、梅雨のこの時期の訪問に。
まさにほんのさわりですが、行ってみただけでよく、それで気が済みました。
余談ながら、気象情報で梅雨とは、雨と湿気が長く続く「梅雨前線」の事をいい、北海道に梅雨前線がかかることはまずないため、この定義より(昔から)、北海道に梅雨はないといわれています。
ただ地元バスガイドさんによれば、6月は曇天や雨の日が多く、むしろ気温が低く寒さを感じることが多くてずっと暖房スイッチはオンにしっぱなしでした、ということでした。
確かに訪問時には長袖を着ていても上着がなければ寒いくらいでした。
●釧路湿原:
総面積2万9千ヘクター ルという湿原は、東京都がすっぽり入ってしまうほどで、日本最大の湿原といわれています。
ここはおよそ1万年前には陸地に深く入り込んだ海だった。それが6千年前ごろか ら3千年前にかけて海がじわじわと後退し、堆積した泥炭の上に植物が生え、徐々に現在の湿原が形成されたという。
貴重な生態系の残っている自然環境として1980(昭和55)年には日本初のラムサール条約指定湿地に指定されています。
今回は、温根内(おんねない)口から整備の行き届いた木道コースの1部を現地のベテラン女性ネイチャーガイドの案内で約1km弱を往復するのみにとどまりました。

※観察できた植物:
案内板には、春から夏にかけて温根内木道沿いに見られる花として、ヒメカイウ、ミツガシワ、ハナタネツケバナ、エンコウソウ、ヤチヤナギ、クロバナロウゲ、ヤナギトラノオ、カキツバタ、タヌキモ、ホザキシモツケ、ツリフネソウ、サギスゲその他が紹介されていました。
今回はごく限られた時間と範囲内のほんの“さわりだけの”観察に過ぎませんでしたが、既に花の終わっていたもの、またはまだ咲かないものも含めて、太字標記した植物を観察することができました。
●ハンノキ(ヤチハンノキ):
木道に入って歩き始めて間もなくハンノキが目立ちました。
ハンノキそのものは特別めずらしい樹木ではありませんが、湿原内で見られる唯一の樹林がハンノキ林だそうです。
ここでは、湿原周辺の丘陵地から流れ込んでくる土砂や、川が運んでくる土壌が堆積した場所に林を形成しているとのこと。
ただ養分が少なく生育条件の厳しい泥炭地では20~30年しか生長出来ずに幹は立ち枯れてしまい、残った根株から再び数本の芽を出し,新しい幹が生長して更新される「萌芽更新」によっているのだそうです。
なおハンノキ・ヤチダモ林は典型的な湿性林で釧路湿原などにも多いそうです。
●ヤチボウズ:
湿地にはたくさんのカブスゲ(ヤツリグサ科)が分布しています。
カブスゲは地下茎を出して繁殖する性質があり、その地下茎が集合して細根と絡み合い、密なルートマットを形成して、一つの株をつくります。
そしてその株から年々新芽を出して次第に大きな株に生長していきます。
また冬季には土が凍結して土を持ち上げていく「凍上」が起こります。
この時にカブスゲの株も一緒に持ち上げられ、春の雪融け時には株周辺の土が融雪水で削られたり流されたりして、地上部がせり上がった株になります。
これを数十年の長期にわたり繰り返して、やがてその外観がお坊さんの頭にも見える谷地坊主になっていくということです。
なお“ボウズ”内部には隙間もあり、アリや甲虫類、またサンショウオなど、生き物の住処にもなっているそうです。

●ヤチマナコ:
ガイドさんが木道傍のちょっとした水たまりのところで立ち止まり、木道脇に置かれていた長い竹竿を持ち出して、水溜まりに差し込んでいくと、何と3mの目印が付いている付近まで沈んでいくというパフォーマンス。
ヤチマナコ(谷地眼)という“落とし穴”だそうです。
ヤチマナコは湿原の植物が分解しきれないで堆積した泥炭地の地表部分が地下水流で陥没してできた壺形の落とし穴で、深さは3メートルに及ぶこともあり、馬が落ちて白骨になって発見されたこともあるというお話。
●カキツバタ:
特別珍しくはありませんが、涼しそうな花色です。
●ヒメカイウ(サトイモ科):
初めて見ました。
低地から山地の湿地に生育する多年草で、小型のミズバショウといった外観形態です。
葉は大きさ5~15cmの卵心形~円心形で、10~20cmの葉柄があります。
花茎は長さ15~30cmで花弁や萼はなく、小さい黄色の花をつけます。
花の外側には表面は白色、裏面は黄緑色で長さ4~6cmの仏炎苞があります。
花期は6~7月、分布は北海道、本州の中部以北。
●ヤナギトラノオ(サクラソウ科):
黄色い花穂が目立ちました。
山地の湿原に生育する多年草です。花期は6-7月。分布は北海道、本州中部以北。
尾瀬などでもよく見られます。
●サギスゲ:
湿地に生育する草丈20~50㎝の多年草で、数個の白い綿毛の小穂を付けるサギスゲ。
和名は複数の白い小穂をサギに見立てたもの。
地下茎は長く這い、葉は茎の基部に付いて短い針状の葉身があり、基部は鞘になっています。
茎頂に、花柄の長さ不定(0~3㎝)で、小穂(長さ5~10㎜の長楕円形)3~6個をつけます。
花被が果時にも残り、長さ約2㎝の綿毛状になります。
なお、小穂が1個のワタスゲは葉が退化して葉鞘だけになっています。
花期は5~7月、分布は北海道、本州の中部以北。
●エゾノレンリソウ??:
周囲はすっかり草むらに囲まれている中に、ただ一つだけ青紫色の花の塊が垣間見えたので撮ったものです。
少し遠くで、アングルも制限されて写真は1枚だけです。
Web図鑑など参考にして、エゾノレンリソウ?では、と推測しましたが、確かではありませんが、一応記録としました。
※エゾノレンリソウ(蝦夷連理草)(マメ科レンリソウ属):
湿った草地や湿地などに生えるマメ科植物。茎の高さは30~80cm。
茎は3稜形で狭い翼がある。
葉腋から伸びる花序に、長さ約2センチの紅紫色~淡紅紫色の花を総状に数個つける。
花冠は旗弁、翼弁、竜骨片からなる蝶形。
葉は羽状複葉。小葉は長楕円形で、2個ずつ対生し、裏は粉白色。葉の先端の巻きひげがあり、分枝する。
花期:5~8月、分布は北海道、本州の中部以北。
●ハナタネツケバナ(アブラナ科):
観察するのは初めてでした。
サハリン以北に分布の中心をもつ寒地性植物で、日本では1970年代になって北海道東部の湿原で発見されたという。
釧路湿原、そして霧多布湿原でも見られるということです。
花期は6月。
●ミツガシワ(ミツガシワ科):
湿地や浅い水中に生える多年草です。花期はすでに終わっていて、花はありません。
寒地性植物の代表格でも冷涼な高地や寒冷地の湿地や湖沼に見られます。
尾瀬の池塘などでも普通に見られます。
●タヌキモの開花(タヌキモ科):
ガイドさんが、限られた時間の中、どうしても見て欲しい花があります、ということで、目的地めがけて早足で一目散に。
見せられたのはタヌキモの花でした。
タヌキモは環境省レッドデータで準絶滅危惧(NT)に指定され、北海道レッドデータブックでは希少種になっているという水生植物です。
なかなか間近で観察する機会がなく、おかげで初めての見学ができました。
※タヌキモは池沼の水中に浮遊する多年生の水性食虫植物です。
根は張らず、通常他の抽水性植物などの近くの水中に横たわるように浮かんで生育します。
和名は,植物体全体が狸の尻尾のように見えることから。
植物体は柔らかく、葉はやや密に互生し、2~4回羽状に細裂し、裂片は糸状で小葉の各所に長径1~3mm位の捕虫のうを多数つけて、水中プランクトンのミジンコなど微細な生物を吸い込み栄養にしています。
葉腋から茎より細い10~25cmほどの花茎を水面に立ち上げて総状花序を作り、花柄をもつ黄色い唇形花を4~7個、咲かせます。
開花日数はごく短いそうです。花期は夏~秋、分布は日本各地。
その他
●オオウバユリ:
まだ蕾でした。
●アキタブキ:
方々に群生が見られました。
その他,雑記:
●ヒオドシチョウの幼虫??:
集団でいた黒い幼虫です。
かためて産み付けられた卵塊から孵化した1齢幼虫が糸を吐いて巣を造り、集団で暮らすという特徴をもつヒオドシチョウの3齢幼虫の姿に似ていると思いましたが、付近にはエノキなど見かけず、植物環境などからは別種のように思われ、結局よく分かりませんでした。
一応記録として残しました。
●釧路湿原展望台:
湿原の近くにある釧路湿原展望台に立ち寄りました。
残念ながら霧が立ちこめていて、展望は得られませんでした。