マルクビツチハンミョウ
●マルクビツチハンミョウ
去る5月5日、散歩コースの池端で、足元の遊歩道路面にマルクビツチハンミョウが転がっているのに気が付きました。
既に死んでいました。腹部が小さめの体型から♂の個体だったようで、すでに役目を終えていたのかもしれません。
過去に2回 (2012年4月中旬、および2015年4月17日) 草むらから舗装路面に這い出し、不格好な姿で歩いている場面に遭遇して、その不可思議な昆虫のことを少しばかり知ったのでした。
今回改めて、素人の私にもわかりやすい児童書を2冊借りて参照しながら、その生活史や生態などについてあらためて記録としました。
・ツチハンミョウの生活史:
(参照した書籍は下記本文の後に記した児童書2冊です。)
ツチハンミョウは甲虫目ツチハンミョウ科に属している昆虫の総称です。
日本には19種類のツチハンミョウの仲間が生息しています。
この仲間の幼虫の中で、地中(深さ20~50cm)に作られた「ハナバチの仲間」の巣の中に産み付つけられた(ハナバチの)卵と花粉・蜜を食べて成長する(→寄生といいます)ものにマルクビツチハンミョウ、オオツチハンミョウ、ヒメツチハンミョウなど7種*が知られているそうです。(*日本甲虫学会第6回大会 日本昆虫分類学会第18回大会合同大会プログラム・講演要旨集; 北九州市立自然史・歴史博物館; 2015年11月21日~22日)
いずれも翅は退化して飛ぶことは出来ず、大きな腹部を抱えた体型で見た目は奇妙ですが、体色は金属光沢のある濃紺色でさほど気持ち悪くはありません。
また成虫の地上への出現時期は春に限られていてあまり見かけることがない昆虫です。
・ツチハンミョウの生態
ツチハンミョウの幼虫は、地中に巣を作る種類の「ハナバチの仲間」の巣に寄生します。
ツチハンミョウの♀成虫は4月ごろ、地中に穴を掘って数千(4000~)個の卵を産み、穴は土でふさぎます。
約10~30日後、卵は孵化して、第一期幼虫が地上に出てきます。
そしてこの第一期幼虫は近くの花の上に登り降りして動きながら、ハナバチの仲間が訪れるのを待ちます。
ただ、ツチハンミョウ幼虫はハナバチの仲間とそれ以外の昆虫を見分けることができないので、花に来た虫に手当たりしだいにとりつきます。
また第一期幼虫の寿命は4日間ほどということで、ハナバチの仲間以外の昆虫に取りついたものや、さらに多くの、何者にも取りつくことができなかった大多数の幼虫は死滅してしまいます。
このような過程で運よくハナバチの♀に取りつくことができた個体だけが、ハナバチが地中に作った巣の中に入り、(ハナバチが生んだ)卵に寄生することができ、そして成虫になることができるのです。
この成功の可能性は大変少ないため、数千個という沢山の卵を産むというのです。
また、第一期幼虫がハナバチの巣にたどり着く道筋については現実に追跡のしようがない(または困難な)ため、多くは仮説ということです。
寄生に成功した第一期幼虫は卵、花粉、蜜を食べ終えると、第二期幼虫になり、地表近くに部屋を作り、その中で脱皮して第三期幼虫になり夏を過ごします。
9月上旬にまた脱皮して第四期幼虫になり、9月下旬にさらに脱皮して蛹になり、一か月後の10月下旬に羽化して成虫になります。
羽化した成虫はそのまま(地上には出ないで)土の中で越冬し、翌年の3月下旬~4月上旬に地上に出て、♂と♀が出会い交尾して、4月ごろ♀は土の中に穴を掘って数千個もの卵を産み、産卵後、穴は土でふさいでしまう、という生態です。(オオツチハンミョウの場合)。
(※なお、話が複雑になりますが、「ハナバチ」とは、花粉や蜜をたくわえて幼虫の餌とするミツバチ上科の昆虫の総称です。
世界中に約2万種が知られ、9科に分類されていて、日本には、約500種がいるそうです。
そしてツチハンミョウの種類によって寄生する相手は「ハナバチの仲間」なら何でもよいということではなくて、例えばヒメツチハンミョウの場合は、「コハナバチ」には寄生しないで、「ヒメハナバチ」にのみ寄生するのだそうです。)
※ツチハンミョウに関して:
以下の2図書は児童書ながら、素人の私には十分読み応えがありました。
①『ファーブル写真昆虫記 〈6〉 リラの花祭りのお客』
原作:ファーブル,ジャン・アンリ 構成:三谷 英生 写真:栗林 慧 小川宏ほか
発行所 ㈱岩崎書店(1987/02発売)
②『つちはんみょう』 作・絵 舘野 鴻(たてのひろし) 発行所 偕成社(2016/4発行)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参考補足:
以下に、過去2回のマルクビツチハンミョウに関する観察記録の一部を抜粋して再掲:
①: https://kuromedaka-saitama.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-09cf.html
2012年4月20日 (金)
●マルクビツチハンミョウ♀成虫:
4月中旬、堤防整備工事が終わったばかりで、乾燥して滑りやすい裸地斜面を、一匹の濃紺色の金属光沢を持つ異形の甲虫が、前翅からはみだした大きくやわらかな腹部の重い体を引きずるようにヨタヨ登っているのに遭遇しました。体長25mmほどで腹部の大きい♀成虫だったようです。
見つけたのは初めてです。
翅が退化して飛ぶことが出来ず、背中がむき出しの「マルクビツチハンミョウ」という甲虫でした。
(画像はクリックで拡大します)
本種は、ツチハンミョウ科に属する有毒昆虫として、また地中に造られたハナバチ類の巣に寄生するためにギャンブラー的な生活史を有し、過変態するという特異な習性をもつ昆虫として知られ、『ファーブル昆虫記』にも登場しているそうです。
成虫出現時期は3~6月、分布は日本各地。
②: https://kuromedaka-saitama.cocolog-nifty.com/blog/2015/04/post-e095.html
2015年4月18日 (土)
●マルクビツチハンミョウ♂成虫:
晴天で気温が5月並に上がった昨日(2015/4/17)、池の堤防の遊歩道沿いで。
セイヨウカラシナやアブラナなど菜の花が咲き乱れる堤防の地面を素早く移動しているマルクビツチハンミョウに遭遇しました。
腹部が小さい体型なので♂の個体だったようです。
奇しくも3年前のほぼ同日、はじめて目にした昆虫です。今回2回目の再会ですが、千載一遇のチャンスと言えるでしょう。
・擬死と体液分泌:
歩行を邪魔するように傍に落ちていた枯れ草茎で突っつくと、ころりと固まって死んだふりの擬死状態に。
そしてみるみるうちに、関節から猛毒のカンタリジンを含む橙色の体液が分泌されます。
体液には触れないよう要注意。
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